かぎゅー庵
日々思うことを徒然に。百合(少女同士の恋)小説・イラストなども置いています。この手のジャンルに興味のない方、嫌悪を感じる方はご注意ください。また、ジャンルがアダルトですので、18歳未満の方はご遠慮下さい。
【しょぼじ5 そして誰もいなくなったかもしれない】
<この作品はアガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」のネタバレを含み
ます。原作を未読の方はご注意ください>






【しょぼ5 そして誰もいなくなったかもしれない】

 




 

ギシギシギシィ…

 

重く錆びついた音を立て、鉄製の扉が開く。

薄暗い室内に光が差し込み、四角い光の中に二人分のシルエットが床へ伸びた。

狭い室内には様々な用具がところ狭しと置かれている。

一之瀬綾瀬は、ゆっくりと中を見渡した。

跳び箱…白線を引く石灰入れ…高飛び用のバー…障害物用のスタンド…そして、
ちいさなゴールポストが二台。

重ねたマットから据えた汗の匂いが漂い、埃のそれと入り混じった。

がっちりと鉄格子でガードされた小さな窓を見上げ、

「…たしかに、こりゃ密室だわ」

と綾瀬はうなずいた。
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アジサイ (前編)
【アジサイ】

 

 

 

櫟女学園へ入学して2ヶ月あまり。

アジサイの花が咲く頃、わたしは、寝込んでしまった。

病気…?

そう、病気かもしれない。

もしそうなら、どんなによかっただろう…

 

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アジサイ (中篇)



6.

「ここはさ、アジサイがよく見えるんだよ。ほら」

遠藤さんが窓を指差すので、外を覗くとすぐ向こうが庭だった。緑の生い茂る中で、淡い
青がそちらこちらに見える。
(ああ、あれが…アジサイっていうのか)

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アジサイ (後編)



11.


「…そういうわけで、クラジミアは結構うつりやすいし、うつってもほとんど自覚できないのね。
で、気づかないし、また別の男の子とセックスすれば、その子にもうつる可能性がとても高い
の。気づいても病院へ来ない人が多いし、『大したことないだろう』って。ちょっとアソコが痒い
かな、とか、下り物が匂うな、程度だから。…でもね、クラジミアはほっとくと怖いのよ。卵管が
癒着して受精できなくなったり、HIVに感染する確率がとても高くなる。つまり、クラジミアに感
染すると最悪の場合子供が産めなくなったり、エイズになって死亡することもありうるってこと
ね。
ここで一番困るのは、たとえ病院へ行って薬を貰っても、きちんと服用しなかったり、症状がち
ょっと軽くなると安心して治療を止めてしまうこと。みんな病気持ちだなんて思いたくないし、
面倒だし、彼氏に知られたら、求められたらって、安易に考えるの。これが頭の痛いところで…」
教壇にはざっくりしたサマーセーターにスカートを履いた中年の女性が立っている。彼女が熱
弁を振るうのを、みんな熱心に聞き入っている。わたしも一番後ろの席で講師の話す内容を
頭へ刻み込んでいた。
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しょぼじ4  雛鳥を守る方法



冬晴れの空が澄んだ青を広げ、雲がひとすじふたすじ白い筆でさっと描かれている。

はあっ…と息を吐くと、目の前が微かに曇る。

近頃は暖冬が当たり前のようになってきたけれど、こんな身の引き締まる日も悪くない。

綾瀬はクラスの男子に手伝ってもらいながら、大きな屑籠の中身を焼却炉へ放り込んだ。

今は放課後のお掃除タイム。

上の窓から黒板消しをパンパン叩く音や、「こら、ふざけるな」とまじめに掃除しない子を
叱る声が響いてくる。いたって平和なんである。

当番ではない生徒たちは下校に部活にと、水を得た魚のごとく四方八方へ散らばり始めた。

「なあ、一之瀬よー」

当番の男子が不意に話し掛ける。

「なに?」

綾瀬が答えた。

晩生というわけではないが、日頃あまり男子とは話さないので、こういうシチュエーション
は珍しい。

「おまえさあ、恋バナとかよくする?」

「―――え?」



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お見舞いフルーツ


【お見舞いフルーツ】

 



 

 

櫟女の数少ない自慢の施設。

それは、温泉である。

有名旅館ほどではないけれど、天然の露天風呂こそ櫟女生の楽しみのひとつ。

 

これは、その温泉にまつわる数々の悲喜劇のひとつなのである(←一部誇大表現
有り)。

 

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しょぼじ3 バーチャル・ラブ



ありがちだけど、綾瀬の所属する部は文芸部であったりする。

「文芸」といったって文章を書いているのはほんの2、3人。あとはもっぱら読み専の
部員ばかり。部員数こそ十数人とわりと所帯は大きいが、こまめに顔を出す人間は
ほとんどいない。ようするに「何もやっていない」と思われるのが嫌で、形式的に所
属している者たちばかりなのであった。

実際、文学を語るのは難しい。

嗜好が同じであればそれなりに話題が共通するので会話もなんとか成り立つが、
これが全然違うジャンルの話だと、よほど聞き手が懐の広い人物でなければ話が
噛み合わない。それに、同じ嗜好でも好みとする部分がたいていは違っているので、
ヘタをすると喧嘩になってしまう。そんなわけだから、読書好きといっても、みんなが
みんな和気あいあいとなりにくいのが文系の難しいところだ。

かくいう綾瀬も読み専である。

かてて加えて、ちょっと昔の推理物とかミステリーとか、今時の主流から外れた本
が好きなものだから、肩身が狭いのなんの。やむを得ず?幽霊部員のひとりになっ
てしまう次第。

ところが、たまには部活へ顔を出さないと自動的に退部させられてしまうという、こ
の学校の余計なシステムのせいで、あまり気のすすまない部活動もやらなければ
ならないのだ。

今日もそんな日。



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バルサの女
<―――ご注意:食前・食後に服用しないで下さい―――>




【バルサの女】

 

 

 

櫟女にだって美少女はいる。

例外的にだが、いる。

いるったらいる。

でもね…

 

 

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しょぼじ2  赤いハンカチ



【赤いハンカチ】

 





 

 

「もう一人の自分ってさ、やっぱり居るんだと思う?」

「いるんじゃない?」

話しかけられた綾瀬は、小泉八雲の『怪談』から目を上げた。

ときわ学園の図書館は、高校にしてはなかなかの蔵書を誇っている。

閲覧スペースもそこそこ広いし、昼休みの雑談にはもってこいだ。

とはいえ、読書が三度の飯より好きな綾瀬にしてみれば、世間話に図書館を使うな
どもっての他。マナー違反なのである。

鈴川亜古〔すずがわ・あこ〕のように、ふだんは足も向けない輩がいきなり向かいの
席に座って、突拍子もない話を始められるのは迷惑以外の何物でもない。

「見たって人がいるんだけど」

声をひそめて亜古が言う。もっとも、周りに気を使ってのことではなく、秘密の話をす
るのにふさわしいから。

「鈴川さん」

綾瀬は元クラスメートの名を呼んだ。

「ここ、図書館。本を読むところ。で、あたしは読書中…わかるでしょ?」

「ああ、わかるわよそれは…どうしようかな」

亜古は指でトトンとテーブルを叩きながら思案した。

「けっこう深刻〔マジ〕な話なんだけど。別のところで話さない?」

「放課後になったらね。今はキャンセル。それとも、他の人に相談して」

とりつく島もない綾瀬に、亜古はしばらく睨んでいたけれど、あきらめて図書館を出
て行った。

綾瀬は気にしない。

たちまち本の世界へ埋没してゆく。

(あー、『おしどり』って怖い話よねー、やっぱり)

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お嬢さまになれ  後



「ドイツってさ、漢字で書くと独立の独に都都逸〔どどいつ〕の逸になるんだよね」

「うん、まあ、それはいいから。とにかく城だ城」

「そう。その城をどうするかってこと」

いきなり天から降って湧いた話に、いささか混乱してきた。それもある意味仕方の
ないことかもしれない。なにしろ暇な時間は軍手はめて鍬を握るか、試供品のパッ
ケージの包装とか造花作りの内職とか、山を降りて農家へバイトと称した出稼ぎに
行くか……とにかく華やかさとは対極の世界にいる少女たちにとって、『お金持ち
のお嬢さま』の存在は泥池に咲いた一輪の蓮の花。も、それだけで舞い上がっち
ゃう。例え目の前にいるのが、頬がややしもぶくれで、黒ぶち瓶底メガネで、使い
古した染みの取れないジャージの肘と膝にチューリップの接ぎ当てをした、どちらか
とゆーと一昔前のぼーっとした女中さんのよーなやつでも。

「やっぱ白馬とか飼ってんだろうなあ」

「飼ってないよ」

ぼりぼりと沢庵をかじる早苗。
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